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事務局より

放射性セシウムに関する一般の方むけのQ&Aによる解説

社団法人日本土壌肥料学会

土壌・農作物等への原発事故影響WG

 

 

 福島原発事故が起きてから一ヶ月が経過しました。「放射性物質が降ってきた水田や畑で、お米や野菜を育てられるの?」という、農耕地の安全性について不安の声が大きくなっています。私たちが風評に惑わされずに判断し、問題に対応するためには、「土の中での放射性物質のふるまい」や、「土に入った放射性物質が作物にどれくらい吸収されるのか」などに対する知識が必要とされます。そこで、「社団法人日本土壌肥料学会土壌・農作物等への原発事故影響WG」によってまとめられた、これまでの土壌肥料学の研究成果から、判断の手助けになるような情報をQ&A形式にまとめました。

 なお、引用文献や具体的な研究事例などをより深く知りたい方は、「社団法人日本土壌肥料学会土壌・農作物等への原発事故影響WG」が発表した原文(URL:http://jssspn.jp/info/secretariat/post-15.htmlをご覧下さい。また、放射線そのものや健康への影響に関しては、「独立行政法人放射線医学総合研究所」のHP(URL:http://www.nirs.go.jp/index.shtml)に詳しい解説がありますのでご参照下さい。

 

Q1. 土の汚染で問題になるのはどの放射性物質ですか?

A1. 土の汚染では特にセシウム137Cs-137)に注意が必要です。

 福島第一原発事故で放出された放射性物質のうち、農作物や水道水で問題とされている元素は、放射性ヨウ素(I)と放射性セシウム(Cs)です。セシウム137の方が問題となる理由は、放射性ヨウ素と比べて寿命が長く、自然に崩壊して半分に減るまでの期間(半減期)が30年と長いことと、土に含まれる粘土や有機物と強く結びつくために、長期的にその影響を調べたり評価と対策を考えておくことが必要になるからです。

 

Q2. セシウム137は、通常土には存在しないのですか?

A2. 大気圏核実験によって1960年代をピークに地球全体に広がり、土に降下したため、今でも世界中の土の中に微量ですが存在しています。

 セシウム137は、核実験や原発事故によって大気中に放出される、人間が作り出した放射性物質です。半減期は30.2年で、放射性物質のヨウ素131の半減期が約8日であるのと比べると長い間放射能の影響が残ります。日本では1960年代から農耕地や農作物への影響に対する研究が継続して行われており、影響が少なくなった現在も、原発事故などに備えて平常時のセシウム濃度が定期的に測定されています。

 

Q3. セシウム137はどのように土に入ってきますか?

A3. 大気中に浮遊するセシウム137が降雨によって土に入る割合が大きいと考えられます。

 そのため、土の中のセシウム137の濃度は、一様に分布しているのではなく、風向きや雨の降り方によって、局地的に分布することが考えられます。

 

Q4. セシウム137は土に入るとどうなりますか?

A4. セシウム137は、土に強く保持される特徴があります。

 化学のお話になりますが、元素の周期律表をみるとセシウムは、ナトリウム(Na)やカリウム(K)と同じアルカリ金属に分類され、これらの元素と同じようにふるまうことがわかっています。土に入ってきたセシウムはカリウムと同じ様にプラスの手(荷電)をひとつもった陽イオンとしてふるまいます。一方、土はマイナスの手(荷電)を持っているため、プラスの陽イオンを引きつけてとどめる性質があります。さらに、土の中の粘土に含まれる鉱物(粘土鉱物)には色々な種類がありますが、その中には、セシウムを閉じ込めるのにちょうどいい大きさの穴を持つものがあります。このため、セシウムは他の陽イオンに比べ、土にしっかり保持されて、離れにくくなります。土に降ったセシウム137の70%が、粘土鉱物に強く保持されるという研究結果も報告されています。

 

Q5. セシウム137はどれくらいの期間で土からなくなりますか?

A5. 水田や畑の土から半分の濃度に減る時間(滞留半減時間)は水田作土で924年、畑作土で826年と報告されています。

 この値は1960年代の大気圏核実験で、実際に日本の土に降ったセシウム137から求められたものです。セシウム137が、半減期である30年よりも早く減っていく理由は、作物により吸収されたり土のより深い部分への水の流れとともに移動することなどが挙げられますが、土の性質によって異なりますので注意が必要です。

 

Q6. 土の中にあるセシウム137は、作物に吸収されますか?

A6. 根から吸収されますが、土に入ったセシウムの大部分が粘土鉱物に強く保持されるため、作物が吸収するセシウムの量は、土に入ってからの経過日数とともに減っていくことが報告されています。

 土に入ったセシウム137は、土の中の粘土鉱物などに強く保持されます(Q4に対する答えをご覧下さい)。そのため、土から水に溶け出すセシウム137の量は時間とともに減っていきます。作物は根から主に、水に溶けている養分を吸収するので、作物が吸収するセシウムの量も、同時に減っていきます。また、土から作物へ吸収されるセシウム137の量は、作物の種類によっても大きく異なります。

 

Q7. 土から作物への吸収を少なくする方法はありますか?

A7. 土のカリウムの濃度が高いほど、セシウム137が作物へ吸収される量が少なくなるという研究事例があります。

 土には、チッ素(N)、リン(P)、カリウム(K)の肥料が必要とされます。この3つの肥料のうち、カリウムを与えないと作物が吸収するセシウム137の量が増え、堆肥を畑に入れると減るという報告があります。このような研究から、作物への吸収をより少なくするような農耕地の肥培管理のできる可能性があります。

 

Q8. 作物ごとに吸収されるセシウム137の量を知る目安はありますか?

A8. セシウム137が土から作物へ吸収される量を示す数値を、「移行係数」といい、作物ごとに算出されています。

 たとえば、土から白米への移行係数(白米1 kg当たりの放射能濃度/土壌1 kg当たりの放射能濃度の比)は0.00021~0.012と報告されています。数値に幅があるのは、土の性質や畑に入れる肥料によって、作物が吸収するセシウムの量が変わるからです。

政府の原子力災害対策本部では、「移行の指標」として0.1という値を用いています。この値は、かなり安全側に配慮した指標であると考えられます。

 

Q9. 作物の食べられる部分と食べられない部分で、含まれるセシウム137の量は違いますか?

A9. 作物に吸収されたセシウム137が分布する割合は、部位によって異なります。そのため、作物のどの部位を食用にするかによって、食べ物とともに体内に取り込むセシウム137の量も違ってきます。

 作物に吸収されたセシウム137が、作物の部分ごとに、どれくらいあるかということは、セシウム137を実際に体の中に取り込む量を考える際、大切な情報です。お米を例にあげますと、イネが吸収するセシウム137全量の12~20%が玄米に移動します。また、ぬかで白米より高い濃度にあることが知られており、このためセシウム137の濃度は、白米のほうが玄米に比べ30~50%程度低いと報告されています。

 

Q10. 基準値を超える量のセシウム137を吸収した作物や、稲わらなどの玄米以外の部分はどのように管理したらいいのでしょうか?

A10. 家畜の餌、堆肥化、鋤込み、焼却等の処理は、再びセシウム137が食物連鎖を通じて畜産品に移行したり、農地に還元される可能性がありますので、望ましくありません。

 例えば、イネの場合、白米とそれ以外のセシウム137の存在比率は7 : 93との報告があります。このため、白米にセシウムが少ない場合でも、それ以外の稲わらなどの処理方法への対策が急がれています。

 なお、農林水産省が3月25日付けで「放射性物質が検出された野菜等の廃棄方法について(Q&A)」を公開しています(URL:http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_haiki.html)

 

Q11. 土壌から植物へのセシウムの移行係数が白米が他の作物に比べおおよそ1桁低いのはなぜでしょうか。

A11. 可食部のセシウム濃度を対象としているため、植物体全体を対象とする葉菜類より小さいのです。
 
移行係数は、農作物の可食部を対象にしています。イネが吸収したCsのうち、白米に運ばれるのは僅かな量であり、白米中Cs濃度は低いため、移行係数としては小さい値になります。

 
Q12. 水稲は陸稲よりもCsを吸収するという報告があるそうですが、中干しをするとCs吸収は抑制されますか。

A12. 好気的な管理によって、Csの水稲への吸収を抑制する可能性はあると思いますが、実際の中干し等の効果については、実証的なデータはありません。

 稲の生育時期において、最高分げつ期くらいまでは、土壌から生成するNH4+量が水稲吸収するNH4+量よりも大きいので土壌中に存在するNH4+によってセシウムが置換されて吸収され易くなる可能性があります。したがって、中干し等の水管理によって硝酸化成を促進するような管理を行えば、理屈の上ではセシウムの吸収が促進される状況を回避できると考えられます。(実験で確認されているかどうかは、未確認)なお、出穂期前後の好気的な水管理はカドミウムの吸収を促す作用もあるので、幼穂形成期から出穂2週間後くらいまでは、通常の湛水管理を行う方が良いと考えられます。
 

Q13. 土壌の中で、セシウムはどのような形態で存在しているのでしょうか。

A13. 酸化還元状態に関わらず、主にCs+イオンとして存在すると考えられています。
 酸化還元状態によって吸収されやすさが変わるカドミウムとは違い、セシウムの存在形態は変化しません。
 


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