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学会について

会長挨拶

波多野会長

生産と環境の先を目指して土壌肥料研究を
進めよう!

波多野隆介(北海道大学)

 このたび日本土壌肥料学会会長に就任いたしました北海道大学の波多野隆介です。会長就任にあたりご挨拶申し上げます。私は、これまで土壌肥料学会では、第一部門長(2001-2007)、SSPN編集委員長(2015-2016)および副編集委員長(2017-2018)、副会長(2017-2018)を務めさせていただきました。また国際土壌科学会(IUSS)ではCommission 4.3 “Soil and Land Use Change” のChair(2010-2018)を担当し、2018年からDivision 2 “Soil Properties and Processes”の Chairを務めています。

 私は副会長になって始めて、学会の理事会に関わるようになりました。理事会は年7回、土曜日の午後一杯開催されています。土壌肥料学会が行っている多くの活動が、常務理事、担当理事、事務局の献身的な努力によって支えられていることを強く認識しました。2011年の福島第一原発事故では、南條会長のもとで土壌肥料学会は放射能対策関連の資料を迅速に提供し、SSPNにも特集を組み世界に向けて研究成果の発信がありました。小崎会長、間藤会長のもとでは、2015年の国際土壌年へのさまざまな取り組みの企画や、12月5日の世界土壌デーでのシンポジウムが盛大に行われました。犬伏会長のもとでは、来る2024年の国際土壌の10年に向けて、IUSS会長に就任された小崎元会長のサポート体制を整え、東アジア東南アジア土壌科学連合(ESAFS)のサポートオフィスの設置が行われました。また土壌教育の充実として新学習指導要領小学校理科における「土の粒」の指導案の提示を行いました。Lal教授の日本国際賞の受賞に合わせた土壌肥料研究者への発信も行っております。これらは、理事会での議論を通して、実行されたものです。私が務めるこの2年間も、副会長、理事、事務局の皆様の助けを頂きながら、土壌肥料学会の発展に務める所存です。

 日本土壌肥料学会は1927年に創立され、今年92周年となりました。すなわち、あと8年で100周年を迎えます。私のこの2年間は、100周年に向けてのホップ・ステップ・ジャンプのための助走期間にしたいと思っています。具体的な活動内容を皆様と相談させていただきたいと考えております。

 日本土壌肥料学会はこれまでの長い歴史の中で様々な活動により、発展し現在に至っております。現在の部門は、土壌物理、土壌化学・土壌鉱物、土壌生物、植物栄養、土壌生成・分類・調査、土壌肥沃度、肥料・土壌改良資材、環境、社会・文化土壌学の9部門からなります。私が学会に始めて参加した1978年には11部門制でした。社会・文化土壌学の部門はまだありませんでした。私が大学に入ったときはちょうどオイルショックで、出た時もオイルショックでした。その前の高度経済成長で、化学肥料と農薬の多投化が進行しているときでした。サイレントスプリングが流行り、1975年には有吉佐和子の「複合汚染」が発表されました。「・・・化学肥料と農薬により土壌は死に・・・」は衝撃的でした。本当のことが知りたくなりました。私は四日市出身ですので、工業による公害、市民の環境意識の高まりは強く感じていましたが、農業がそこまでとはとても想像できませんでした。しかし、その後、世界的な農業と環境の関係における議論や、1987年の「持続可能な開発」の提案、1992年の「アジェンダ21」などから、1994年には環境保全型農業が定義されるにつれて、問題が根深いものであることを認識していきました。この間、1990年には京都で14回国際土壌科学会議が開催され、「Sustainability」を始めて耳にしました。持続可能性とはなんぞや?どうやって達成する?と若手の間で頭をひねった覚えがあります。一方、この間、子供達の土離れが進み、その懸念から、学会では土壌教育が検討され始めました。学会からは、「土をどう教えるか」や「土の絵本」が刊行され、2006年に第9部門が新設されました。新設にあたり、部門長会議でしきりに議論したことを思い出します。

 日本土壌肥料学会は、これまで社会的問題、社会情勢の変化に迅速に対応してまいりました。現在、我が国では、さらなる都市化、少子化と農村部の高齢化、人口減少が進んでいます。1960年に600万haあった耕地面積は耕作放棄が進み450万haを下回り、さらに毎年1万ha近くが放棄されています。その対策として、農地の大区画化が進められ、北海道には7haにもなる大きな圃場もあるようです。しかし、このような大きな圃場には、異なる土壌タイプが含まれ、肥沃度の不均一性が問題になっています。我が国は圃場が狭いが故にそもそも精密農業であったものが、大区画化により欧米が目指す精密農業への取り組みが必要になったということです。その基礎研究が進められています。

 さらに、最近、気候変動が強く現れるようになり、農産物への被害も深刻化しています。温暖化の緩和のための土壌の炭素貯留、温室効果ガスの排出抑制などの土壌管理技術の適用を進めるとともに、気候変動に適応可能な圃場管理技術、肥培管理技術の研究開発が進行しています。気候変動の緩和と適応は世界共通の問題であり、パリ協定を機に開始された4/1000イニシアチブ(土壌炭素を毎年4/1000増やす活動)で世界各国との連携が進められています。

 また、我が国の古くからの問題として、アルミニウム、カドミウム、ヒ素など人体へ有害な元素の植物吸収を抑制するための土壌管理の研究がありますが、同時に植物体内で有害元素を子実に蓄積させない植物体の開発が進展しています。さらに、放射性セシウムで汚染された土壌の改良と、放射性セシウムの吸収抑制の技術化も進展しています。土壌汚染の撲滅は今年度FAOが掲げるテーマです。以上のような日本土壌肥料学会が取り組む技術開発に関する研究は、世界の問題解決に大いに貢献するものであり、今後その活動はますます重要になると確信しております。

 このように、日本土壌肥料学会は、現地調査による問題発見、問題解決のための基礎研究の積み重ね、実規模での実証試験による対策技術の構築と技術の普及という流れが、部門間で共有されています。まさに「Sustainability」のために働いている学会であることが分かります。しかし、一般の人がそのことを理解しているかと言えばやや心もとない感じがします。昨今の環境変動はますます深刻であり、土壌の脆弱性が目立ちます。土壌肥料研究を知らない人がみれば、構築された技術があたかも不十分であるかのように見えるのではないかと危惧します。

 このようなことから、土壌肥料研究の根本を、さらに社会に伝える必要を感じます。その根本とはなにか。それは、食料が足りないときは、増産できるようにすることであり、栄養が足りない時は栄養バランスの取れる他品目の作物を生産できるようにすることであり、人が病気になるような危険な化学物質は使わず、自然環境をできるだけ維持するものであり、すべてが人の健康に結びつくように地域を健全に保とうとすることであると思います。そして、土壌は脆弱で、人と同様に人が守るべき対象だということを認識してもらうことが必要だと思います。国連が定めた2015年の国際土壌年の標語は「Healthy Soils for a Healthy Life」でした。私たちは、将来「土壌と人の健康」の部門を作るくらいのつもりで、この標語をしっかり宣伝する必要があると思います。

 日本土壌肥料学雑誌、Soil Science and Plant Nutritionは、日本の土壌肥料研究者のものの考え方を内外に伝えるための大事な機関紙です。どうしたら読者を増やせるか、インパクトファクターを上げられるかは、学会の力量が問われる重要な課題です。今後も最優先で議論し、日本土壌肥料学会の100周年につなげていきたいと思います。各種学会賞は学会が誇る研究の賜物であり、集大成であったりイノベーティブであったり、いずれもが素晴らしい内容を紹介しています。これらの受賞内容を、もっとわかりよく、わくわくする読み物として、機関紙を通して内外に届けられないかと思います。

 日本土壌肥料学会は、これまで社会情勢の変化をリードしてきたと思います。しかし、最近の変化のスピードはますます早く、またグローバル化により地域ごとの多様な意見が瞬時に現れ、インパクトを持つものがスタンダード化していくように見えます。そのような多様な目まぐるしい変化に対して、日本土壌肥料学会がその変化にきちんと対応できるかどうかは、我が国の社会のあり方に対して大きな影響を及ぼすと思います。そのような対応のためには、学会員が社会とのつながりを実感して、研究を楽しみ、快活に議論できることが最も大事だと思います。私は、そのために尽力をしたいと思います。会員の皆さまにはご支援いただけますよう心からお願い申し上げます。

 末尾ではございますが、皆様のますますのご発展を祈念して、会長就任の挨拶とさせて頂きます。


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