ホーム > お知らせ > 原発事故・津波関連情報 > 原発事故関連情報(4):水田環境における放射性核種の移行評価モデル

原発事故・津波関連情報

原発事故関連情報(4):水田環境における放射性核種の移行評価モデル

 

日本土壌肥料学会

土壌・農作物等への原発事故影響WG

 

1.はじめに

これまで放射性セシウム(Cs)や放射性ストロンチウム(Sr)について、土壌-作物系での挙動を理解するために基礎的な知見を紹介してきた。特に、水稲における放射性核種の移行を例に挙げて示してきた。その4では、水田環境における放射性核種の移行を評価するための移行モデルの考え方と解析事例について紹介する。

 

2.移行モデルの概要

 原子力施設に起因する公衆の被ばくを合理的に評価するためには、日本人の主食である白米の摂取に起因する内部被ばく線量を精度良く求めることが重要となる。このためには、水田環境にもたらされた放射性核種の白米への蓄積を評価するモデルと、そのモデルに用いるパラメータが必要となる。

 

3.移行係数モデルの概要

 土壌中の放射性核種濃度が既知の場合に、白米中の放射性核種濃度を推定する手法として最もシンプルなモデルは、白米中の放射性核種濃度が土壌中の放射性核種濃度に比例すると仮定するモデル(以下「移行係数モデル」という)である。その1「放射性核種(セシウム)の土壌-作物(特に水稲)系での動きに関する基礎的知見」で紹介した、「土壌から白米への移行係数(乾燥白米1 kg当たりの放射能濃度/乾燥土壌1 kg当たりの放射能濃度の比)」はその比例係数であり、移行係数モデルに用いられるパラメータである。移行係数モデルは、土壌中の放射性核種濃度が分かれば、移行係数を乗じることによって簡便に農作物の可食部(水稲の場合は白米)中の放射性核種濃度を推定することが可能であることから、計算が容易であり、内部被ばく線量評価で一般に用いられている。

 

4.動的コンパートメントモデルの概要と解析例(土壌から白米への移行評価モデル)

 移行係数モデルは、収穫時における白米中濃度を推定するという目的では有効であるが、水田環境中の放射性核種の移行挙動を模擬したモデルではない。このため、例えば水稲の生育期間内における放射性核種の蓄積状況の把握や、ファイトレメディエーションによる放射性核種の除去効果の確認等、経時変化を評価する必要がある場合には不向きである。このような、環境中における放射性核種の移行挙動をモデル化し、その経時変化を把握するためには、動的コンパートメントモデルが多く用いられる(高橋2002;Amanoら, 2003)。動的コンパートメントモデルは、評価対象系を、評価対象物質の蓄積部(コンパートメント)の集合体としてモデル化し、これらのコンパートメント間の物質移行や、評価対象系外との物質移行を、時間の逆数の単位をもつ係数(このパラメータも一般に「移行係数」と標記されるが、ここでは前述の土壌から白米への移行係数と区別するため、TC(Transfer Coefficient)と記述する)で表す。動的コンパートメントモデルでは、各コンパートメント内の評価対象物質量の経時変化が常微分方程式として記述され、この連立常微分方程式を、初期値を与えて解くことにより、コンパートメント内の評価対象物質量の経時変化を求めることができる。

 評価対象系をコンパートメントに分割する際の分割方法は、評価を行う目的や、解析に用いるパラメータの入手状況等によって判断することとなる。ここでは、水田圃場系における動的コンパートメントモデルを構築した例を示す。

 土壌に蓄積した放射性Csの水稲への移行について検討するために構築したモデルを図1に示す(Takahashiら, 2003)。水稲は穂部と茎葉部の二つのコンパートメントに分割しており、穂部のコンパートメントは出穂期以降に存在することとなる。穂部へのCsの移行経路は、茎葉部に一度吸収されて蓄積し、再度穂部へ転流する経路と、土壌から直接穂部に移行する経路(経根吸収)の2つの経路が考慮されている。これらの移行経路のTCは、水稲の生長曲線や、安定Csあるいは放射性Cs等の水稲への移行に関する参考文献を用いて設定される。一度地表面に沈着した放射性Csが、水稲の収穫や土壌からの流出・浸透によって系外に移行することで減少する効果を確認するためには、このようなモデルが有効である。

 水稲地上部及び穂部中安定Cs濃度について、生育期間内における経時変化を評価した解析例を図2に示す。この解析例では、Csの土壌から水稲地上部への吸収量は生育期間内で一定と仮定している。生長曲線としてシグモイド曲線を用いていることから、生育初期ではCs濃度が比較的高いが、生長が顕著になると濃度は急激に減少する傾向がモデルによって模擬されている。

 

5.動的コンパートメントモデルの概要と解析例(水田環境を総合的に模擬したモデル)

 放射性核種の大気からの沈着及び灌漑水からの流入の2つの経路を考慮して構築したモデルを図3に示す(Takahashiら, 2006)。穂部は籾殻、糠、白米の3種類に、茎葉部は茎葉表面、茎葉内部、茎葉通過の3種類に区分している。「茎葉通過コンパートメント」は、ヨウ素のように揮散しやすい放射性核種を解析する場合に用いるが、CsやSrの場合は使用しない。この場合、土壌から茎葉通過コンパートメントへのTCは0となる。水田土壌の放射性Sr及び放射性Csは、移行が速い成分と遅い成分の2種類に区別し(高橋ら, 2000、高橋ら, 2001)、経根吸収は両方の成分からイネに移行すると仮定している。

 大気からの沈着経路を評価するためには、沈着時に湛水しているか否かが、圃場への放射性核種の残留量に影響を与えると考えられるため、田面水コンパートメントも必要となる。田面水コンパートメントは、湛水している時のみ存在すると仮定し、落水時に田面水コンパートメントに存在する放射性核種は系外に移行することとなる。水田土壌中に存在する放射性核種は、経根吸収によって茎葉内部に移行する。籾、糠、白米へは、葉茎内部に蓄積した放射性核種の転流、あるいは水田土壌から直接経根吸収により移行すると仮定する。これらの移行量は、水稲の生育段階によって変化する。また、大気中に存在する放射性核種は、水稲の生育期間に応じて区分したイネの5種類の部分に直接沈着すると仮定する。大気からの乾性あるいは湿性沈着速度などは、生長曲線や参考文献を用いて設定される。

 今回の事故において、放射性物質が大量に放出された時期は、水田に関しては休耕期であったため、このような直接沈着を評価するモデルは必ずしも適用する必要はない。しかし、水稲の生育期に放射性物質の沈着が生じるような場合には、このようなモデルを用いて、収穫期における白米中濃度を評価することが必要とされる。

水稲の生育初期(田植えから20日間)に、放射性Srが大気から短期的に水田環境にもたらされた場合の、水田土壌、田面水及び水稲各部への蓄積量の経時変化を評価した解析例を図4に示す。放射性Srは茎葉部表面及び田面水に沈着する。茎葉部表面の放射性Srはウェザリング(風雨による除去)によって減少する。田面水に沈着した放射性Srの一部は水田土壌に吸着し、落水時に田面水に存在する放射性Srは落水によって系外に移行する。また、再度圃場に供給された田面水には、水田土壌から放射性Srが脱離する。この解析では、茎葉表面から茎葉内部への吸収は生じない(すなわちTC=0)と仮定しており、茎葉内部、籾殻、糠及び白米へのSrの蓄積は全て水田土壌からの経根吸収に起因している。この解析では田植えから20日後における沈着を想定しているが、出穂期以降に放射性物質の沈着が生じた場合は、大気からの直接沈着経路も、籾殻、糠及び白米への蓄積に寄与することとなる。

 

図1~4は、こちらをご覧ください

 

引用文献

Amanoら(2003) Journal of Nuclear Science and Technology 40, 975-979.

高橋ら(2000) 保健物理35, 359-364.

高橋ら(2001) 保健物理36, 111-121.

高橋(2002) シミュレーション21, 15-19.

Takahashiら(2003) Proceedings of the International Symposium on Radioecology and Environmental Dosimetry, Rokkasho, Aomori, Japan, 480-483.

Takahashiら(2006) Proceedings of the International Symposium on Environmental Modeling and Radioecology, Rokkasho, Aomori, Japan, 189-195.


学会について

お知らせ

国際土壌年2015

学会誌・刊行物


ページの先頭へ戻る