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原発事故・津波関連情報

原発事故関連情報(6):森林生態系における放射性セシウム(Cs)の動態とキノコへの移行

 日本土壌肥料学会

土壌・農作物等への原発事故影響WG

 

1.森林生態系におけるCs-137の分布

森林は陸上に広く分布する代表的な生態系の一つであり、多くの生物が共存すると同時に、地球環境において大気の組成や気候を調整する機能を果たしている。人にとっては、木材、食料、水、燃料等の供給源として重要であり、そこでの汚染物質の挙動や影響を明らかにする意味は大きい。

森林の樹冠は表面積が大きいため大気中の汚染物質を捕集する機能を持つ。放射性核種の場合も同様で、ガスや粒子として樹冠に沈着することに加えて、雨とともに降下する放射性核種の一部も樹冠に捉えられる。落葉樹林で樹冠に葉が付いていない場合には、林床に直接沈着する割合が大きくなると考えて良い。こうして森林に入って来た放射性核種は、森林内の物質循環に伴って移動する。特にCs-137は、必須元素であるカリウム(K)と同じアルカリ元素であるため、その動きは非常にダイナミックである(Schellら, 1996)。

樹冠に沈着したCs-137は、降雨による洗い落としや、落葉・落枝(リター)と共に、林床に移行する。林床の上部に堆積したリターの生物分解や、リターからの溶脱が進むと、Cs-137は土壌有機物層のより下部に移行し、最終的には有機層に接している土壌(A層)の最上部付近に蓄積して長期間保持される傾向がある。このように森林におけるCs-137の分布に強く係っているのが、森林生態系の栄養塩サイクルに伴うCsの循環である。即ち、土壌表層のCs-137が植物によって経根吸収されて葉に至り、これが再び溶脱やリターと共に林床に帰るという、一種のポンプの様な作用が働いている。この循環の中で、Cs-137は可給態(植物にとって利用されやすい存在形態)を維持し、それ故森林のキノコや植物中のCs-137は比較的高濃度に維持される(例えばYoshidaら, 2004)。

森林内における放射性核種の分配に関して、我が国ではYamagataら(1969)によって、フォールアウト起源のCs-137とSr-90について松林における分布が調査されている。全沈着量のうちCs-137の80%、Sr-90の63%が深さ5 cmまでの表層土壌に存在していることが報告されている。残りの部分は、より深い土壌と植物(主として樹木)に存在する。樹木中のKは、個体内の生物活動が活発な部分に集まることが知られており、Cs-137もほぼ同様の傾向を持つ。例えば、チェルノブイリ事故によって汚染されたマツの場合は、若い葉や、樹幹の形成層付近で濃度が高いことが確認されている(Yoshidaら, 2011)。

 

2.生態的に見たキノコの区分

一口にキノコと言っても、分類学上は子嚢菌類、担子菌類など種々雑多な種類が含まれている(Webster & Webster, 2007)。全世界に生息するキノコの正確な種類数もわかっていない。日本でも自生するキノコの半分近くが名前もつけられていない(今関・本郷, 1987,1989)。一方で、生態学的な側面からキノコを分けると、腐生性と菌根性の2つのグループに大別することができる。

腐生性キノコ(腐生菌)とは、落葉や枯死木、動物の排泄物や死骸などを分解して主な栄養源とするグループで、代表的なキノコにはシイタケ、ナメコ、ヒラタケなど比較的栽培しやすい種類が多い。菌根性キノコ(菌根菌)とは、主として生きた植物(木本植物)に炭素源を依存しているグループで、マツタケ、トリュフなどが代表的なキノコである。一方の植物は地中に張り巡らされた菌糸をとおして養分や水分の一部を効率良く吸収している。このように、多くの菌根菌は植物と共生関係を保てないと長期間の生存が困難になることも多く、人工的な栽培がむずかしい。また、亜高山帯や高山帯のような環境条件が厳しい場所では、植物も菌根を形成しないと養水分の吸収が十分にできないと考えられ、1種類の樹木が同時に数十種類のキノコと共生関係を保つ例も数多く観察されている(柴田, 2000)。

腐生性、菌根性に限らず、キノコの菌糸は生息基質中あるいは地中にコロニーを形成している。これまで知られている中で最も巨大なコロニーは、同一の遺伝子構成をもつナラタケの仲間の菌糸が15 haの範囲に巨大なコロニーを形成していた例がある(Smithら, 1992)。

このようにキノコは多様な生活史をもつ生物群であるため、生態系において果たす役割も単純ではない。さらに、キノコを環境変化の指標生物として活用するための調査も行われていが、結果を出すまでには長期間のモニタリングが必要であるため具体的な事例は少ない(柴田, 2006)。

 

3.キノコへのCs-137の移行

チェルノブイリ原子力発電所の事故以降、キノコ中放射性Cs濃度の高いことが数多く報告されている(例えば、Battistonら, 1989; Bemら, 1990; Kammererら, 1994)。日本においても一般の食品に比べ、キノコ中Cs-137濃度の高いことが知られている(杉山ら, 1993; Ban-naiら, 1997)。そのためチェルノブイリ事故以降から1990年代において食品摂取により人体へ移行するCs-137の約30~50%がキノコ由来であると推定されている(五十嵐ら, 1989; Ban-naiら, 1997)。また、野生種のキノコ中Cs-137濃度は、人工栽培されたキノコより高い濃度にあることが知られている(杉山ら, 1990; Ban-naiら, 1997)。キノコの菌糸が生育する基質中Cs-137濃度によるが、一般に腐生性キノコに比べ菌根性キノコ中Cs-137濃度で高い濃度にある。更に、基質中Cs-137濃度が比較的一様であってもキノコ中Cs-137濃度は種類によって数桁の濃度範囲にあり、キノコ中Cs-137濃度はキノコの種類に依存する(Kammererら, 1994; Tsukadaら, 1998; Yoshidaら, 1994)。キノコの移行係数(乾燥基質1 kg当たりの放射能濃度(Bq/kg)に対する乾燥したキノコ1 kg当たりの放射能濃度(Bq/kg乾物)の比)の平均値は、15(Ecklら, 1986)、9.3(Tsukadaら, 1998)等と報告されている。また、菌糸が存在する基質毎にキノコの種類を分けて調査したCs-137移行係数は、>10(木質)、5.5(リター)、13(表層0-5 cm土壌)、11(>5 cm土壌)との報告もある(Yoshidaら, 1994)。

 

4.キノコにおけるCs-137の動態

キノコから高濃度のCs-137が検出されることは国内外で知られているが、その高濃縮特性を説明しうる知見は明らかではない。ここでは、おもに腐生性のヒラタケを用いた培養実験に基づくCs-137の動態の一端を示す。通常、国内産キノコ中のCs-137濃度は市場流通の多くを占める腐生性では野生種の菌根性のものに比べて低い数値を示す。しかしながら、培地のCs-137濃度に応じてヒラタケ子実体中濃度も増加することから(杉山ら, 1993)、子実体中濃度は菌糸の種類のみならず、基質中Cs-137濃度にも大きく依存すると考えられる。キノコによるCsの取込みについて同族のアルカリ元素共存下における影響を検討した結果、ヒラタケ菌糸によるCs-137の取込みは、安定元素のCs、K、あるいはルビジウム濃度の増加により減少し、互いに拮抗的な取込みにあることが示されている(Teradaら, 1998)。培地にCsを添加したヒラタケ培養菌糸のNMR測定からはCsイオン態とは別のピークの存在が認められており、Csの高濃縮性との関連が推察される(Kuwaharaら, 1998)。走査電子顕微鏡-元素分析装置よりCsの組織内での局在性が観察され、細胞分画実験においては細胞小器官(液胞分画)におけるポリリン酸との関連が示唆されている(Sugiyamaら, 2008)。以上は、キノコにおけるCs-137動態の一部であり、その特異的なCs高蓄積性の解明にはさらなる研究が求められる。

 

引用文献

Ban-naiら(1997) Health physics 72, 384-389.

Battistonら(1989) Journal of Environmental Radioactivity 9, 53-60.

Bemら(1990) Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 145, 39-46.

五十嵐ら(1989) 平成元年度福井県衛生研究所年報28, 55-58.

Kammererら(1994) Journal of Environmental Radioactivity 23, 135-150.

Kuwaharaら(1998) Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 235, 191-194.

今関・本郷(1987, 1989) 原色日本新菌類図鑑I, II. 保育社.

柴田(2000) 森林科学30, 8-13.

柴田(2006) 森のきのこたち, 八坂書房.

Schellら(1996) Health Physics 70, 318-335.

Smithら(1992) Nature 356, 428-431.

杉山ら(1990) Radioisotopes 39, 499-502.

杉山ら(1993) Radioisotopes 42, 683-690.

Sugiyamaら(2008) Journal of Agricultural and Food Chemistry 56, 9641-9646.

Teradaら(1998) Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 235, 195-200.

Tsukadaら(1998) Journal of Environmental Radioactivity 39, 149-160.

Webster & Webster (2007) Introduction to Fungi 3rd ed. Cambridge USP.

Yamagataら(1969) Journal of Radiation Research 10, 107-112.

Yoshidaら(1994) Journal of Environmental Radioactivity 22, 141-154.

Yoshidaら(2004) Journal of Environmental Radioactivity 75, 301-313.

Yoshidaら(2011) Radiation Protection Dosimetry, doi:10.1093/rpd/ncr181.


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