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原発事故・津波関連情報

原発事故関連情報(1):放射性核種(セシウム)の土壌-作物(特に水稲)系での動きに関する基礎的知見

 

社団法人日本土壌肥料学会

土壌・農作物等への原発事故影響WG

 

1.はじめに

農地に降下した放射性核種の土壌-作物系での基本的な挙動を理解することは、原発事故の影響を理性的に判断する科学的な手だてになるだけでなく、生産者や行政機関にとっては土壌から作物に吸収移行する放射性物質を減らす等の対策の立案にも寄与すると考えられる。そこで、内外の土壌肥料分野で得られた知見を要約して紹介する。また、今般の福島第一原発事故で放出された放射性核種(セシウム、ヨウ素)のうち、半減期の長いセシウムについては、特に長期的対策が必要と思われるので、セシウムを中心に記載する。なお、作付けに関する具体的対策の立案については、個別の農地や河川の汚染状況、農地の土壌特性等を勘案して判断されるべきものであり、ここでは先ず判断の一助となるような基礎的知見についての情報提供を行うものである。

 

2.セシウム(Cs)の元素としての性質

Csの安定同位体は質量数133のCs-133であるが、核実験や原子炉における核分裂で生成される放射性同位体は主に質量数137のCs-137である。Cs-137の半減期は30.2年である。放射性ヨウ素(I-131)が半減期約8日であるのと比べると長期的に放射能の影響が残る。元素周期律表では、ナトリウム(Na)やカリウム(K)と同じアルカリ金属に分類され、元素としての挙動に類似性があり、この点がCsの環境中での挙動を理解する上で重要である。

 

3.土壌に降下したセシウムの挙動

原子炉からCsが環境中に放出された場合、イオン態として雨に溶けた状態で土壌に降下する割合が大きいと考えられる。Csは土壌に降下するとKと同様に1価の陽イオンとしてふるまう。土壌は負の電荷を帯びているため、正電荷を帯びた陽イオンを引きつけ、土壌の表面にとどめる性質がある。土壌に含まれる粘土鉱物の中には、負電荷のある場所がCsを閉じ込めるのにちょうどいい大きさを持つものがある。このため、Csは他の陽イオンに比べ土壌から離れにくい傾向にある。

大気圏核実験に由来するCs-137は、主に1960年代に地球全体に広がり、土壌に降下した。わが国の水田および畑土壌のCs-137濃度は、降下量の多かった1963~1966年をピークに減少し、作土内における滞留半減時間は水田作土で9~24年、畑作土で8~26年と報告されている(駒村ら, 2006)。このCs-137濃度の減少は、下層への溶脱等の他に放射壊変による減衰も含んでいる。土壌中のCs-137の分布を粘土、シルト、砂に分けて調べた例では、半分以上のCs-137が粘土画分に存在しており、また、土壌への吸着の強さや様式で分けると、K、NH4等の陽イオンと置き換わることができるイオン交換態(置換態とも言う)が10%、有機物との結合態が20%、粘土鉱物等との強固な結合態が70%との報告がある(Tsukadaら, 2008)。

Csは土壌に沈着した後、時間の経過に伴い土壌により強く保持されることが知られている。土壌に放射性Csトレーサーを添加した実験では、添加10日後に水で抽出されるCsが添加量の0.1%という事例が報告され、その時のイオン交換態は26%であったが、約1年後には11%にまで減少した(塚田ら, 2008)。

 

4.土壌から作物へのセシウムの移行

Csの作物への吸収経路は、大気から作物体に沈着し吸収される葉面吸収と、一度土壌に降下したのち根を通じて吸収される経根吸収がある。ここでは、長期的な観点から後者の経根吸収されるCsに関する知見を整理した。

土壌-作物間のCsの移行は、作物の種類、土壌の性質によって大きく異なる(IAEA,  2010)。土壌に添加されたCsは、上述のように土壌の粘土鉱物等に強く結合される。したがって、水溶性の部分は時間の経過とともに減少する。一方、作物は土壌溶液中の養分を主に吸収するので、作物が吸収するCs量も、土壌へのCs降下後の経過日数とともに減少することが知られている。例えば牧草栽培実験では、Cs添加直後に播種した場合よりも、数ヶ月後に播種した場合の方が牧草中Cs濃度は低かった(武田ら, 2009)。

日本各地の観測圃場で採取された米のCs-137濃度は、1966年以降減少傾向を示している(駒村ら, 2006)。また、土壌から白米への移行係数(白米1 kg当たりの放射能濃度/土壌1 kg当たりの放射能濃度の比)は0.00021~0.012で、土壌中のK濃度が高いほどCs-137の作物への移行が少ない傾向にあるとの報告もある(Tsukadaら, 2002a)。施用資材によっても移行係数は変化し、通常のNPK三要素を施肥した場合に比べK肥料を無施用で高くなり、堆肥施用で減少するとの報告がある(津村ら, 1984)。

 

5.吸収されたセシウムのイネ体内での存在割合

 Cs-137とKはイネ体内では比較的類似した挙動を示す。作物に吸収されたCs総量のうち玄米に移行した割合は12~20%(津村ら1984)である。糠部分で白米より高い濃度にあることが知られており(Tsukadaら, 2002b)、白米のCs-137濃度は玄米に比べ30~50%程度低い(駒村ら, 2006)。

可食部へのCsの移行が少ない場合であっても、稲ワラ等の非可食部の処理をどうするかは重要な問題である。例えば、イネの場合、白米とそれ以外の部位のCs存在比率は7 : 93との報告がある(Tsukadaら, 2002b)。非可食部の家畜への給与、堆肥化、鋤込み、焼却等の処理により再び放射性Csが食物連鎖を通じて畜産品に移行し、あるいは農地に還元される等の可能性がある。第一義的には放射性Csの吸収抑制対策の確立が重要であるが、非可食部の処理についても考えておく必要がある。

 

引用文献

IAEA (2010) Handbook of Parameter Values for the Prediction of Radionuclide Transfer in Terrestrial and Freshwater Environments. Technical Reports Series No. 472.

駒村ら(2006) 農業環境技術研究報告, 24, 1-21. http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/publish/bulletin/niaes24-1.pdf

武田ら(2009) 平成20年度環境科学技術研究所年報, 21-23.

Tsukadaら(2002a) Journal of Environmental Radioactivity, 59, 351-363.

Tsukadaら(2002b) Environmental Pollution, 117, 403-409.

Tsukada ら(2008) Journal of Environmental Radioactivity, 99, 875-881.

塚田ら(2008)日本原子力学会2010年春の大会講演要旨.

津村ら(1984)農業技術研究所報告B, 36, 57-113.


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