土壌教育委員会がかかわる活動を紹介

土壌教育シンポジウム(島根)2005-09-08

2006年1月 7日 Posted in 主催行事

タイトル:SPP事業 土壌教育シンポジウム「土と向き合って−土壌教育の重要性を考える−」
開催日 :2005年9月8日(木)
開催場所:島根大学教養講義室棟2号館G会場(松江市西川津町1060)
主  催:(社)日本土壌肥料学会
後  援:島根県教育委員会

プログラム(総合司会:平井英明)
 1. 開会の言葉(東照雄)
 2. 土壌教育部会設立の経緯(福田直・菅野均志)
 3. 講演
 ・土壌教育の重要性(山本広基−島根大学)
 ・映像による土壌教育プログラム(福田恵−サイエンス ディレクター)
 ・地学教育における土壌教育(松本一郎−島根大学)
 ・学校教育における土壌教育(福田直−埼玉県立川越工業高等学校)
 ・島根県における生産者への土壌教育(藤本順子−島根県木次農林振興センター)
 4. 総合討論(東照雄・田中治夫)

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土壌教育の重要性−山本広基 先生(島根大学)symp2005-lec1.jpg

都市部に住む人々が土壌に触れることが極端に減り,彼らの中での土壌の印象が希薄になっている。地球上の「自然のシステム」からなる生態系の営みを支える土壌そのものを意識することなしに環境問題の本質を考えることはできないが,土壌そのものを教えることが十分に行われてきたとは言い難い。マスメディアが環境問題の深刻さをセンセーショナルに報ずるあまり,未来に関して過度に悲観的に考える若者が増えているという。とくに初等中等教育における環境教育は,暗い話だけをするのではなく,生命活動は何に依拠しているのか,地球上の「自然のシステム」はどのように機能しているのかといった基礎知識をきちんと習得させ,事例ごとにいろいろな考え方を提示して考えさせることが必要ではないか。そういった環境教育の中で土壌教育が果たす役割は極めて大きい。

映像による土壌教育プログラム−福田 恵 先生(サイエンス・ディレクター)symp2005-lec2.jpg

大地に生きる人の子らその立つ土に感謝せよ。
これは,大木惇夫が作詞した「大地讃頌」の言葉である。この言葉の意味を教えることが土壌教育の真髄ではないだろうか。土壌教育の効果を高めるには,視覚的な教育効果が期待できる映像の利用は有効である。私がNHK教育テレビの「10min. ボックス」ではじめて土壌を扱ったのは,平成12年12月に放送された「土を調べる」シリーズである。次いで平成13年11月には「続・土を調べる」シリーズ,平成16年1月には「酸性雨を調べる」シリーズで「土と酸性雨」を企画した。土壌の化学組成や土壌動物は比較的理解・観察しやすいが,物理性の視覚化に関しては一工夫必要であった。また,時間や空間を超えて比較できる映像の強みを生かし,養液栽培と土壌での栽培を比較しながら土壌の役割を示した。これらの企画は「土壌」が地学と生物学を垣根を越えてつなげるのに最もふさわしい話題であろうとの判断からであったが,「誤解されてきた土壌」を私自身が学び直す良い機会となり,さらに土壌を通して古代文明から現代までを俯瞰したいという文系・理系の垣根も越えて学び合う機会を私に提供してくれた。今後も気長に学びを楽しみたい。

地学教育における土壌教育−松本一郎 先生(島根大学 教育学部)symp2005-lec3.jpg

地球は「土壌の存在する惑星」である。しかし,子ども達を含め私達は土壌について,それが私達にとって「水」と同様に重要であるという認識がそれ程高くない現状がある。地球の不思議さや神秘さは土壌の中にも存在しているが,これが土壌教育を地学的視点から捉える時の重要な要素となる。子ども達に伝えたい土壌の地学的内容は,(1)幼児期から小学校中学年程度では土壌に触れることが重要であり,遊びを通して土壌の色,粒度などを学び,これらに対して無邪気で単純な感動を覚える;(2)小学校高学年から中学生程度では,土壌を構成している要素やその成り立ちを学び,これらを通して身近な土壌の中にも地球の長い歴史や大規模な運動があることを実感する;(3)高校生およびそれ以上になると,土壌に関する基礎のうえで人との関わりのなかでの「相互作用」や「利用可能性」についての学びが重要となる。土の中には地球46億年の歴史が閉じ込められており,子ども達には「遊びの中で」あるいは「学習」の中で「土壌が地球の一部である」ことを実感するような教育が必要である。

学校教育における土壌教育−福田 直 先生(埼玉県立川越工業高等学校)symp2005-lec4.jpg

人々の水や大気,生物への関心は高いものの土壌に対する関心は極めて低い。中高生の土壌への関心も低く,土壌は汚いもの,触りたくないものとしている子ども達がいる。このような土壌の見方や考え方,イメージは幼少期の親の土壌への接し方と深く関わっている。その後も,学校教育で適切な土壌教育が実施されないため,子ども達が持っている土壌に対する偏見や捉え方は払拭されない。教育現場が土壌教育に消極的な理由として,(1)学習指導要領における土壌の取り上げ方に問題がある,(2)教師が土壌を良く知らない,(3)土壌の教材化が進んでいない,などがあげられる。土壌は身近にある自然物であり,土壌を授業教材として積極的に取り上げ,土壌の学習実践を通して自然の成り立ちや仕組み,大切さを教えていくことは21世紀の地球環境を守る担い手である子ども達を育成する上で重要である。学際的色彩の強い土壌について,様々な観点や視点から教科科目を越えた教材づくりをするなど,創意工夫をしていくことが必要である。今後は,土壌に関する教材・授業づくりの成果等を,日本土壌肥料学会で発表,報告,情報交換していきたい。

島根県における生産者への土壌教育−藤本順子 先生(島根県木次農林振興センター)symp2005-lec5.jpg

島根県における生産者への土壌教育は,県,市町村,JAなどが開催する研修会が主で,その内容は土壌診断,土づくりといった直接作物栽培に関わることが中心となっているが,普及員やJAの指導員による通常業務の中での実際の指導はあまり行われていないのが現状である。生産者は土壌の大切さをおぼろげながら認識して入るものの,土壌そのものへの理解度はそれ程高くない。生産者は,痛い目にあってはじめて土壌への理解を示す場合が多く,また,生産者と指導者との信頼関係が成り立っていない場合はいくら土壌診断をしても指導を納得してもらえない。土壌診断に基づく土壌管理の指導を行い,生産者の思い込みや誤解を正すのが指導者の責務であるが,そのためには指導者自身がもっと勉強し,土壌に対する理解を深めることが重要である。