高校生による研究発表会(東京)2022-09-13(詳報)
日本土壌肥料学会2022年度東京大会では1日目の2022年9月13日(火)に,恒例の「高校生による研究発表会」を東京農業大学世田谷キャンパス1号館3Fのポスター発表会場にて開催しました.
当日は全国から20課題(17校,ポスター掲示のみの発表6校7課題を含む)の発表がありました.約40名の高校生はポスターの前で研究内容を説明し,大会参加者からの専門的な質問やコメントを受けて,熱心な議論を行いました.90分のコアタイムを終えても活発な質疑応答が続いていました.
学会会長,大会運営委員長および土壌教育委員による審査の結果,最優秀ポスター賞2課題(発表番号9 青森県立三本木農業恵拓高等学校,発表番号12 広島県立西条農業高等学校)および優秀ポスター賞3課題(発表番号3 山形県立村山産業高等学校,発表番号5 北海道岩見沢農業高等学校,発表番号6 東京農業大学第三高等学校)が選ばれました.
当日夕方に行われた表彰式では,妹尾土壌肥料学会長(東京大学)と藤原大会運営委員長(東京大学)より講評があり,森土壌教育委員長(埼玉県立川の博物館)より全発表課題に対して発表証明書と参加賞が手渡されました.次いで,妹尾会長より最優秀ポスター賞および優秀ポスター賞の表彰状,副賞が授与されました.
表彰式の様子
参加校と発表課題は以下の通りです.
発表題目 | 学校名 | クラブ名等 | |
1 | 北海道稲田におけるCNSL添加によるメタン発生抑制のメカニズム研究 ななつぼしにおける効果測定 | 札幌日大高等学校 | SSH |
2 | 士幌町の有機栽培モデル農場の確立へ ~馬鈴薯の収量安定化に向けた試験栽培~ | 北海道士幌高等学校 | 畑作専攻班 |
3 | サトイモの超促成栽培に関する研究 | 山形県立村山産業高等学校 | 農業科学部サトイモ研究班 |
4 | オタネニンジンの生育における土壌形態と物理性の調査研究 | 栃木県立鹿沼南高等学校 | 環境緑地科 |
5 | タマネギ連作圃場でリン酸減肥栽培がタマネギの収量に及ぼす影響 -リン酸肥料の違いによる検証- | 北海道岩見沢農業高等学校 | 農業科学科 SS専攻班 |
6 | バイオチャーの散布はダイコンの成長及び収量に影響を与えるか | 東京農業大学第三高等学校 | 理数探究課程 |
7 | カボチャの種、捨てますか?育てますか?~家庭でできる工夫~ | 神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 | 化学生物同好会 |
8 | 高オレイン酸ヒマワリ種子の飼料化に向けた研究 ~肉質及び脂肪中オレイン酸割合の向上を目指して Second season~ | 青森県立三本木農業恵拓高等学校 | COW飼う'S |
9 | 廃棄ニンジンを活用した機能性鶏卵の生産に向けた研究 ~卵黄色及び卵黄中レチノール量の向上を目指して~ | 青森県立三本木農業恵拓高等学校 | PINE LAB |
10 | 木材廃棄物の再利用実験 | 北海道函館中部高等学校 | 普通科 SS特講Ⅲ |
11 | 木材腐朽菌を用いた割り箸の堆肥化 | 立命館慶祥高等学校 | シンガポール国際共同課題研究 |
12 | 土壌中のケラチン分解細菌の発見と羽毛分解能力の検証 校内の廃棄羽毛を利用したオリジナル窒素肥料開発に向けて | 広島県立西条農業高等学校 | 生物工学科 ケラチン分解細菌班 |
13 | ソバにおけるエンドファイトの単離と利用 | 山形県立村山産業高等学校 | 農業科学部エンドファイト研究班 |
14 | 鉄分量の多いもやしの栽培 キレート錯体の形を利用した鉄イオンの吸収率の変化 | 立命館慶祥高等学校 | SS課題研究III |
15 | 北海道岩見沢農業高校における土地管理が土壌化学性および土壌炭素含有率におよぼす影響 | 北海道岩見沢農業高等学校 | 農業土木工学科 環境アセスメント班 |
16 | 都市部に適した「樹木環境の復元」と「土壌改良」について ~国天然記念物馬場大門ケヤキ並木保護更新プロジェクト~ | 東京都立農業高等学校 | 造園部 |
17 | 高吸水性ポリマーを添加した土壌の保水性 合成系SAPを添加した土壌の保水性の簡易的な測定 | 東京都立科学技術高等学校 | 課題研究 |
18 | 人工降雨が環境に与える影響について | 愛知県立豊田西高等学校 | 愛知県立豊田西高等学校SS課題研究V |
19 | 天然染料と媒染剤の関係 食料廃棄物から環境問題への貢献 | 市立札幌開成中等教育学校 | |
20 | 学校構内の表土に生息する土壌生物 | 学校法人静岡理工科大学静岡北高等学校 | 科学部 生物班 |
最優秀ポスター賞受賞の青森県立三本木農業恵拓高等学校の活動風景1
最優秀ポスター賞受賞の青森県立三本木農業恵拓高等学校の活動風景2
最優秀ポスター賞受賞の広島県立西条農業高等学校の活動風景1
最優秀ポスター賞受賞の広島県立西条農業高等学校の活動風景2
優秀ポスター賞受賞の北海道岩見沢農業高校の活動風景1
優秀ポスター賞受賞の北海道岩見沢農業高校の活動風景2
優秀ポスター賞受賞の東京農業大学第三高等学校の活動風景
- 学会長による講評:
- さまざまなテーマの研究発表を楽しく,興味深く見せていただきました.どの発表も力作で,高校生の皆さんの若さ溢れる純粋なエネルギーが伝わって来るのを感じました.先入観にとらわれず,時には怖いもの知らずでチャレンジングな試みをされている発表を見て,私も若返った気がしました.コロナ禍の中,研究活動にも大きな制限があったのではと推測します.そのような状況でも,立派な研究を成し遂げられた皆さんに心から敬意を表します.研究を進める中で,皆さんは,教室での通常の授業とは異なる活動を行い,様々な体験をし,時には大きな苦労もされ,そして大きな達成感や喜びを得たことと思います.研究を通じて皆さんは一回りも二回りも成長されたに違いありません.今日の発表には,長く先輩から受け継いで来て,軌道に乗って進めている課題もあれば,始めたばかりでまだまだ粗削りなものもあったように思いました.どちらにしても,皆さんによって得られた様々な研究成果が今後さらに発展して,農業生産や生態系保全,食品の質の改善,環境技術,温暖化防止,循環型社会などの各方面へ広がっていくことを願っています.そして,私が最も期待するのは,この研究活動で得た経験を土台として,皆さんが今後いろいろな分野に興味を持っていただいて,さらに学びと経験を重ね,大きく活躍されることです.皆さんの前には無限の可能性が広がっています.これからも頑張ってください.
- (東京大学:妹尾啓史)
- 大会運営委員長による講評:
- 皆さんの多様な発表を拝見し,また,議論もして私にも刺激になりました.皆さんが,今日発表されたことは普段の勉強とは全然違うところがあると思います.普段の勉強は既に知られた知識を学んでいます.別の言い方をすると誰かが答えを既に知っていることについて,皆さんは答えられるようにすることが普段の勉強では無いかと思います.そのことも大切ですが,皆さんこの先の様々な進路では,色々と解らない,誰も知らないことにチャレンジする場面が必ず出て来ると思います.既に変化は起こっていますが今後も人類を取り巻く状況は変化し続けていきますので,周辺の環境がどんどん変わっていく中で,何か新しいことを作ったり,調査することが大切になってくると思います.その時に,今回のポスター発表の内容のように,皆さんが集中して取り組み,自分の考えで進めていくということが大切になってくると思います.既に地域の農業などに貢献できる内容もあったように思いますのでぜひ継続して活動していただきたいと思います.また,皆さんにお伝えしたいことは,自分が調査した結果を公表するということです.何をどのように研究して結果を得てそれがどう意義があるのかを書くことは振り返りになりますし,何らかの方法で公表すれば皆さんの活動が広く多くの人に知られるようになります.また,今後10年,20年経っても何が行われたかを知ることができるようになり,皆さんの活動がより活かされることにつながると思います.
- (東京大学:藤原 徹)
- 土壌教育委員長による講評:
- 皆さん,遠路の方々も沢山いらっしゃって,お越し頂きありがとうございます.土壌教育委員会は1983年に最初の活動がスタートして,来年で40年になります.その中で色んな活動をしてきました.2009年からこの高校生ポスターの活動をしておりまして,もう15年になるんですけれども,土壌教育委員会の大きな活動になっております.最初は,10件に満たなかった発表課題が,コロナ前には20件に届く発表が有りまして,今年もこのような状況の中20件の申し込みを頂いて,残念ながら発表会場に来れなかった学校も有りますけれども,皆様の発表が充実したもの,レベルが上がってきているものがあることを大変うれしいことだと思っております.皆さん小学校からずっと勉強してきていて,小学校,中学校でも研究の機会が有ったと思うのですけれど,高校に上がると研究内容もステップアップして,今度は皆さんが大学に進むとそれが専門課題とかになり,さらに大学院に向けてステップアップしていく,その大きなステップにこの発表会が一助になればすごく嬉しいことだと思っております.しかも,皆さんは小学校,中学校では,あまり土とか環境についてそれほど深く勉強することはなかったと思うのですけれども,そのような分野にも深く踏み込んで発表していただいて,私たちとしてもとても嬉しいことだと感じています.是非この活動を後輩の皆さんにも広めていただきたいですし,先ほど藤原先生も仰っておられましたが,人に伝えるために書くと言うことも重要だとの話が有りましたが,その前に,私は博物館に勤めているのですが,博物館に勤めていると,人に伝えると言うことがすごく大事だと言うことが,自分が感動したこと,解ったことを周りの友達とか御両親だとかに「こんなこと解ったよ」とか「こんな面白いことが有ったよ」とか伝えることがとても重要なことだと思います.皆さんも研究の発表とは言わないですけれども,「こんなことが解ったんだよ」,「こんなことをやっていて面白かったんだよ」と言うことを周りの人に伝えることをしていただければと思います.
- (埼玉県立川の博物館:森 圭子)
表彰式終了後の集合写真