土壌教育活動だより 96-5
土壌教育委員会の活動を報告します.土壌教育委員会は,7月19日に2025年度第1回土壌教育委員会を開催しました.議事の内容は,昨年度事業の決算報告および今年度事業の予算について,委員会の開催について,高校生による発表会オンライン開催について,ウェブサイトの充実について,出版企画について,Soil Judging Contest関連事業について等でした.
委員による土壌教育活動を報告します.福田直顧問(武蔵野学院大学)は7月10日に筆跡研究所(川越市)で開催された市民講座「自然の講座―地球環境を考える」(7回シリーズ,前期4月~7月,主催者:環境教育研究所)第七回「世界の土壌劣化」において講師を務めました.参加者は市民12名でした.地球の歴史,生命と土壌,人類文明と土壌,産業発展・人口増大・環境変動と土壌負荷,森林伐採・生物多様性と土壌,土壌劣化と砂漠化,土壌保全などを解説し,質疑応答,討議を行いました.講座参加者からは,「土壌劣化について初めて知りました,土についてわかっていると思っていたが,知らないことだらけでした」,「土壌劣化が急速に進んでいることに危機を感じました.自分でできることといえば微力ですが,食品ロスをなくしたり,生ゴミを堆肥化して土に還元することしか考えつきせん」,「温暖化の進行が土壌異変に深く関わっていることには深刻さを感じました」,「ふだん土を考えることはほとんどありませんが,講座で土に関心を寄せていかなければならないことがわかりました」など,土壌や様々な環境異変への関心を持ち,土壌劣化について理解することができたという感想が多くありました.同氏は,サイサン環境保全基金の助成を受け,第一回7月24日と第二回7月25日の両日,川越西文化会館(メルト)で,埼玉県教育委員会・川越市教育委員会後援による土壌教育推進事業を行いました.概要は,講義と観察・実験,指導案作成・発表,模擬授業・討議などで,参加者は高等学校教員など、総数は第一回12名,第二回11名でした.講義、観察・実験(土壌の三相分布,土壌の単粒・団粒の観察,土壌層位別の土壌呼吸・土壌動物数の測定実験)からヒントを得て作成された指導案で取り上げられたテーマは,「砂・土・土壌・泥・粘土・土砂は何が違うのか」,「土壌劣化と古代文明の崩壊」,「「怒りの葡萄」で読み取る土壌劣化」,「地球温暖化と土壌呼吸との関係」など,様々でした.模擬授業,各学校での土壌教育実践などの情報交換を行ったことは,土壌指導の内容・方法,実践課題などを知る上で意義深かったと捉えられていることが,アンケート調査からわかりました.今後,参加者がそれぞれの学校で,作成された指導案に基づいて授業を行い,実践後の児童生徒へアンケート調査及び授業評価をまとめる予定です.丹羽勝久委員(株式会社ズコーシャ)は,石倉究氏,池本秀樹氏(道総研十勝農業試験場)とともに7月30日に北海道士幌高等学校の教員2名,2年生の学生1名を対象とし,地形修正実施予定圃場において,凸部と平坦部で土壌断面調査を行い,その違いを説明しました.凸部では作土直下から軽石流堆積物の層が出現するのに対して,平坦部では礫層の出現深度が深さ50㎝近辺でした.なお,地形修正後に再度,同地点で土壌断面調査を行い,その形態の変化について説明を行う予定です.隅田裕明顧問(明治大学黒川農場)は,8月4〜6日において開催された理系進学を目指す都立高校生徒を対象とした東京都教育委員会主催の「令和7年度 特異な才能を伸ばす教育 理数」において課題研究実施協力者を務めました.参加者は東京都立園芸高等学校より4名,東京都教育庁,(株)ディーワークスより各1名の参加でした.このイベントは,明治大学黒川農場に所属する德田安伸氏(特任教授),伊藤善一氏(専任講師)の企画・担当により,隅田顧問,齋藤義弘氏(客員教授)、越田薫子氏(博士後期課程)を課題研究実施協力者として「万葉の植物ムラサキと紫根染めを学ぼう」を研究課題とし実施されました.隅田顧問は 8月5日に、越田氏とともに,ムラサキ紫根より抽出したシコニン誘導体の分光光度計,薄層クロマトグラフィーを利用した解析を指導しました.
会員による土壌教育活動を報告します.谷昌幸氏(帯広畜産大学)は,7月3日に開催された第58回全肥商連全国研修会において講師を務めました.参加者は全肥商連会員約150名でした.「北海道の土壌と肥料の未来」と題し,北海道の農耕地に分布する土壌の種類と特性,とくに黒ボク土におけるリン酸多施用の歴史と現状について講演を行いました.また,作物生産におけるマグネシウムの役割と重要性,バイオスティミュラントの効果と利用法などにについて講演を行いました.同氏は,7月9日に帯広畜産大学畜産フィールド科学センターで開催された桃山学院高等学校大学体験講義において講師を務めました.参加者は桃山学院高等学校2年生および引率教員約40名でした.上記高校の修学旅行における大学体験講義として,「十勝の土の成り立ちと農業の適性を考える」と題した実習と講義を行いました.畜大FSC3号圃場に作成した土壌断面を紹介し,黒ボク土の成り立ちや農業における特性について説明するとともに,実際に土壌断面を観察することで黒ボク土の特徴について理解を深めました.その後,圃場脇の東屋に移動し,北海道の農耕地に分布する土壌の種類や特性について学ぶとともに,土壌特性に応じた北海道における農業生産の特性をクイズ形式で学びました.同氏は7月10日にスガノ農機株式会社土の館ホワイト農場で開催された第48回北海道土を考える会夏期研修会において講演を行いました.参加者は北海道土を考える会会員約100名でした.上記会員を対象に,「土壌断面から空気と水の動きを観る」と題した講演を行いました.とくにサブソイラやハーフソイラの施工に伴う土壌物理性の改善効果について解説するとともに,心土破砕と緑肥との組み合わせ効果について説明した.また、サブソイラの走行速度を変えて行った心土破砕による改良効果について,土壌断面の観察から解説を行うとともに,緑肥として栽培したエンバクの生育量を比較して検証を行いました.石倉究氏(道総研十勝農業試験場)は,8月21日に本別町で開催された本別町生産者で作られた「土づくりを考える会」において講師を務めました.参加者は本別町生産者,本別町農協,十勝農業改良普及センター東北部支所を含めた計14人でした.本別町内の2箇所で土壌断面調査を行い,それぞれ排水性の良否や「土づくり」に向けた対策について参加者とともに議論しました.1箇所目は台地土の上に火山灰が堆積した黒ボク土でした.傾斜の下部であったため腐植層が65 cm深に達しており,耕盤層が形成されていました.参加者からは心土破砕の必要性や反転耕耘の頻度について議論がなされました.2箇所目は沖積地帯に位置し,本別町では珍しい泥炭土でした.最近、暗渠の施工や火山灰客土を施した結果,排水性は改善された旨が生産者から報告されました.
支部における土壌教育活動を報告します.中部支部では,7月20(日)に豊田市自然観察の森において「土の不思議にせまる!」を開催しました.参加者は親子を中心に9名でした.講師は,礒井俊行氏,村野宏達氏(名城大学),岡村穣氏(元名古屋市立大学),瀧勝俊氏(JAあいち経済連),堂本晶子氏(三重県農業研究所),村瀬潤氏,林亮太氏(名古屋大学),の7名でした.内容は、土の話と団粒3Dモデルの紹介,森の中での植物と土の観察,室内実験(吸着・土壌動物),ミニモノリス作りでした.この事業は今回が19回目です.また,同場所において,8月29日(金)に岡崎北高等学校理数科1年生(37名)を対象とした「理数探究基礎」を岡崎北高校と共催、名古屋大学大学院生命農学研究科協賛で開催しました.内容は,講義及び団粒3Dモデルの紹介,フィールドでの植生・土壌断面観察と室内実験(緩衝能・呼吸・土壌動物),総合討論と発表でした.講師は,浅川晋氏,渡邉彰氏,村瀬潤氏,沢田こずえ氏,新庄莉奈氏,林亮太氏,柴原藤善氏(名古屋大学),岡村穣氏(元名古屋市立大学),瀧勝俊氏(JAあいち経済連)の計9名でした.この事業は今回が17回目です.
本欄では会員の皆様の土壌教育活動も紹介します.情報をお持ちの方は支部選出の土壌教育委員までお知らせください.なお,土壌教育委員会の現在の構成は公式ウェブサイト https://jssspn.jp/edu/ の「委員」をご確認ください.
(日本土壌肥料学雑誌 第96巻第5号 掲載)