学会について
この度、一般社団法人日本土壌肥料学会の会長に就任しました妹尾です。就任にあたりご挨拶を述べさせていただきます。
本学会は、食糧の生産に深く関係している土壌学・肥料学・植物栄養学の近代的な理論と技術体系を構築することを目的として、1927年に設立された学術団体です。以来、環境科学の分野なども取り込んで発展を重ねてまいりました。
今日、世界的には食糧の持続的生産に対する懸念や地球環境問題についての関心が高まり、国内的にも環境保全型農業への期待が膨らんでいます。これらのニーズに応え、21世紀における人間社会の安定的発展に貢献することを目的とした本学会の役割は極めて大きく、活動成果の輩出が見込まれています。
このように、本学会は、歴史的に食糧増産、持続的な食糧生産の実現に寄与し、現在は環境保全と持続的食糧生産の両立を進めている、まさに人類の生存を支える活動を行っていると言えます。私たちが取り組んでいる土壌学・肥料学・植物栄養学は、学術的基礎理論の構築から現場に適用する技術開発まで幅広くカバーする学問であり、これらの研究をバックアップする本学会は、人類の生存に必須な食糧生産と環境保全に極めて重要なミッションを担ってきたのです。
現在、私達は、「地球温暖化・地球環境変動が臨界点を超える瀬戸際」という、かつて人類が経験したことのない危機的状況に直面しています。「環境保全と持続的食糧生産の両立」の根底を揺さぶりかねない、この深刻な問題を解決するため、私達は、土壌学・肥料学・植物栄養学の叡智を総動員し、さらに進歩させて、地球温暖化を緩和し、環境変動を最小限に抑え、それに適応した食糧生産を強力に推し進めていかなければなりません。いわば、人類が生き残ることを目指すというステージに私達は立っているのです。しかも、安全で良質、豊かな食糧に支えられた健康で幸福な人類の生存でなければなりません。これを実現するのがこれからの本学会に求められている使命だと強く感じております。
本学会はこれまでの長い歴史の中で、会員の皆様ならびに役員の皆様のご尽力により、研究を支え、研究成果を発信し、問題提起や情報交換を行い、国際活動や教育活動を行うための仕組みが整えられてきました。この仕組みを活用して、さまざまな立場の会員が自由で幅広い活動を継続していくことが学会のさらなる発展につながり、学会の使命を果たすために重要です。特にこれからの主役である若い人たちが学会に多く参加し、活き活きと活動できることが望まれます。
しかし、これはどの学会でも見られることですが、会員数は減少傾向にあり、学会にとって大きな懸念となっています。会員の数と層を厚くする取り組みが必要です。特に、若手会員へのサポートとともに、これから専門分野に進んでくる高校生や大学初年次生に向けて、土壌学・肥料学・植物栄養学の学問としての面白さ、技術としての有用性、地球にとっての重要性、土壌肥料学会の活動と魅力を発信することは重要だと考えます。
農業への関心が高まる一方で、人類と地球の存続に重要な影響を与える土壌の役割については社会における認知度は必ずしも高くはない状況です。土壌を知らない人はいません。しかし、土壌は保全しなければ劣化し、食糧生産が困難になり、人類の生存を危うくする存在であることは一般の人には意外に知られていないと思います。土の大事さ、土を守り育てることの必要性を広く浸透させることは、まさに本学会に課せられた責務です。学会が有している土壌学・肥料学・植物栄養学とそれに基づく技術体系の叡智を社会へ継続的に発信し、学会と社会が知を共有して双方向に交流することにより、社会からの理解と協力が深まり、個人や組織、産業、政策レベルでの土壌の保全につながります。このことは、IUSSが提唱している国際土壌の10年の具体的活動にまさしく一致するものでもあり、学会のさらなる発展にもつながります。農業技術や農業への従事の新たな形態が登場しています。しかし土壌が農業の基本であることは未来永劫変わりません。学会が土を介して広く社会と交流できる仕組みをさらに強固なものにしていくことが重要だと考えます。
2020年冬からの新型コロナウイルスの流行は、これまでの当たり前を再考させるきっかけとなり、世の中の変化を一気に加速させました。人々の生活様式は変容を余儀なくされ、学会活動においても当たり前に行ってきたことができなくなりました。しかし、逆に、学会にとってメリットにつながる発見もあり、当たり前で変えようとしなかったことでも別のやり方があることに気付かされ、コロナ禍での不自由さも皆の知恵と工夫で乗り切れることを実感したこの1年でした。生活様式の変容に伴い一気に普及したオンラインツールを活用することにより、私達の研究活動をより活発にできる一方、対面での対話の重要性も認識されました。時と場合に応じて適切に使いこなしていくことが今後の課題と言えるでしょう。
現代社会に登場している新しいツールは、学会員の円滑で活発な研究活動を継続的にサポートし、土壌学・肥料学・植物栄養学の面白さ、技術としての有用性、地球のための重要性を社会に伝えるために有効です。これらの様々なツールを有効活用できるよう工夫していきたいと考えています。
日本土壌肥料学会は2027年に設立100周年を迎えます。この長い歴史はまさに土壌学・肥料学・植物栄養学という学問が人類にとって必要不可欠であり、学会員の活動が社会に受け入れられ、認められてきたことの証です。地球環境が激変する渦中にある現代社会にとって、本学会の存在意義や果たすべき役割もますます大きくなっています。地球環境危機を乗り越え、人間の健康と幸福の原点である安全・良質で豊かな食糧を生産し、人間社会の安定的発展に資することがこれからの本学会に求められています。
記念すべき学会設立100周年にあたり何をすべきかにとどまらず、さらにその100年先まで継続するためにどのように行動すべきかについて、今日の学会員が考えなければならない課題だと思います。100周年を越えて、時代や社会の要請に応えながら新たな学知や技術を創生できる学会として、その先のさらに100年につなげることが必要です。学会200周年を健康で幸福に迎えるべく、土壌学・肥料学・植物栄養学ならびに日本土壌肥料学会の発展を目指していきましょう。
学会のさらなる発展のためには、会員の皆様のご意見やアイデアは欠かせません。ぜひ私へ躊躇なく知らせていただければ幸いです。皆様のご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。