学会について
この度、一般社団法人日本土壌肥料学会の会長に就任いたしました藤原 徹でございます。就任にあたり所見を一般の皆様と会員の皆様に対して述べさせていただきます。
一般の皆様
作物は土壌に根を伸ばし、栄養を吸収して生育します。人類は肥料を使って作物に栄養を供給し食料生産を増やし、世界人口は80億人を超えるまでに至っています。一方で食料生産や肥料の使用は環境にも影響を及ぼし温室効果ガスを発生させることも知られています。日本土壌肥料学会は1927年に創立された学術団体で土壌、肥料、植物の栄養吸収についての学術的な研究を行い情報発信を通じて食料生産や環境保全に貢献してきました。最近では温室効果ガスの削減などの地球レベルでの環境問題についても取り組んでいます。
これまでも一般の方、関連企業の方、関連分野の研究者の方々との交流や情報発信を行なってきましたが、現代の人類の直面する食料生産と環境問題の両立には幅広い方々の協力が不可欠です。私共の分野に関心をお持ちいただき、様々な立場の方々との相互の情報交換を積極的に進めていければと考えております。
私どもの学会は近く創立100周年を迎えます。これまでの学会の活動に加えて将来への展望について、情報発信をさらに強化していく予定です。私どもの学会の活動に関心をお持ちいただき、学会が企画する講演会やシンポジウム等にご参加いただきますようお願いいたします。また、より専門的な交流をお望みの方には学会への入会をお願い申し上げます。ご入会いただきますと、最新の研究成果情報に触れることができ、学会の研究交流の場である年会の参加費も割引となります。
今後とも日本土壌肥料学会の活動にご支援をいただきますようお願いいたします。また、当該分野についてご質問等がある場合にはご連絡いただければと考えております。
会員の皆様
本学会は食料の生産に不可欠な土壌学・肥料学・植物栄養学の近代的な理論と技術体系を構築することを目的として、1927年に創立されました。創立当時は未だ日本での食料供給は必ずしも十分とは言えず、食料生産に不可欠な土壌肥料植物栄養分野での学術的な研究で社会に貢献してきました。さらに戦後の高度成長に伴って顕在化してきた環境問題に対する対応でも重要な貢献をしてきました。私は生まれてからまもなく60年になりますが、この間食べ物に困る経験をすることはありませんでした。両親のおかげでありますが、社会の発展に負うところも大きく、社会の発展には本学会の先人の貢献が少なくありません。
各方面でも議論されていますが、世界は大きな変革期にあると感じます。昨年発表されたChatGPTを使われたことはあるでしょうか?例えば「日本土壌肥料学会の会長の挨拶を作って」と入力すればChatGPTは不十分な面もあるもののある程度の内容を含んだ文面を作ってくれます。これまでもスマートフォンなどの技術革新が人類の行動様式を変えてきました。今後の対話型AIの発展により、これまで人が担ってきた情報を収集し要約する機能は近くAIには及ばなくなると個人的には感じます。将棋や囲碁のAIのように、“機械”と人の関係性は今後幅広い分野で急速に変化していくでしょう。また、食料についてはこれまでのグローバリズムと自由貿易を基本にした地球レベルでの適地適作が進められ、世界人口増加への対応が進められてきました。一方で環境問題は顕在化し、グローバリズムの問題点もFAOなどからも指摘されるようになっています。その中で昨年始まったウクライナ侵攻に伴って、世界的な状況は大きく変化しています。このような大きなそして急速な変化の中で持続的な食料生産をどのように実現していくのか、学術団体としての本学会への社会の期待は益々大きくなっていると感じております。
本学会のこれまでの社会貢献は会員の皆様の活動によって行われてきました。学会は土壌学・肥料学・植物栄養学の最新の成果を共有し議論する場を提供し、成果を国内外に発信してきました。国際土壌科学連合(IUSS)や日本学術会議をはじめとする国内外の各種団体の活動にも貢献してきました。本学会は2027年に創立100周年を迎えますが、将来に亘っても学会は会員の皆様の活動によるものであることは変わりません。そして、将来の活動を担う主役は若い人たちです。
日本は人口減少社会に入って10年以上が経過し、コロナ禍の影響のためか2022年には出生数が80万人を切りました。私が生まれた年の出生数は171万人でした。60歳になろうとする私が現代の若者の置かれている状況を真に理解するのは容易ではありません。この中で将来を担う若い人たちが魅力を感じ楽しく活動が行えるためには、これまでのような方式で交流や発信をするだけでは不十分なことは明確です。会員数の減少傾向も継続しており財政状況も厳しい中で、若い人たちの意見を十分に反映させ、若い人たちにより魅力的な場をどのように提供できるのかが、学会に課せられた早急に対応すべき課題であると考えています。
学会は学術と社会の架け橋としての役割を担ってきました。一方で学術の発展に伴って、学術は深化し専門化していきます。専門化すればするほど、学術が“専門家”のものになり、その中でだけ通用する概念が生まれ使われる言語が特殊化するなどして、社会とのギャップが生まれてきます。その一方で地球温暖化に代表される社会の持つ大きく複雑な課題の解決には学術が不可欠です。学術が社会問題を解決するには、一般の人々に学術の発展をより分かりやすく理解していただくことが不可欠です。専門的な研究を深化させることと、人々に土壌肥料植物栄養の重要性と可能性を様々な形で発信し、また社会の要請を学会として受け止め対応していくことを両立させていくことは学会の重要な活動であると考えています。
2027年の学会創立100周年にあたっては、前前会長の波多野先生、前会長の妹尾先生が中心になられ、関係者のご努力で、100周年に向けた出版やシンポジウムの準備が進められています。100周年の活動は学会の学術としての知見を取りまとめ、将来を展望し、社会との関係を新たにする機会でもあります。このような機会を活かすには学会員の皆様の協力が不可欠です。前会長の妹尾先生の「記念すべき学会創立100周年にあたり何をすべきかにとどまらず、さらにその100年先まで継続するためにどのように行動すべきかについて、今日の学会員が考えなければならない課題だと思います。」というお言葉はまさに私も意を同じくしており、今後も継続して考えるべき事柄だと思います。
繰り返しになりますが、会員の皆様の活動や努力は学会の社会貢献に不可欠です。学会としては学会員の皆様、特に若い皆様の活動を支援していくことが極めて重要です。財政的な制約などもありますが、若い世代の方々がより活動しやすくなるような学会とするべく、微力ながら学会長として努力して参りますので、学会員の皆様、関係者の皆様のご協力をお願いする次第です。