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原発事故・津波関連情報

原発事故関連情報(3):放射性ストロンチウム(Sr)の土壌-作物系での動きに関する基礎的知見

日本土壌肥料学会
土壌・農作物等への原発事故影響WG

 

1.はじめに

これまで放射性セシウム(Cs)について、土壌-作物系での挙動を理解するために基礎的な知見を紹介してきた。2011年4月13日に文部科学省から3月16日~19日に福島県内で採取した土壌および植物から新たに放射性Srを検出したと発表があった。今回発表された放射性Srは、Sr-89とSr-90で、それぞれの半減期は50.5日と28.8年である。つまり、現存するSr-89とSr-90濃度は、放射性壊変によって1年後にはそれぞれ0.67%と98%に、10年後にはそれぞれ約0%と79%に減少する。土壌中におけるSr-90は、主に1960年代に行われた大気圏核実験によって福島原発事故以前から土壌中に存在していることが確認され、多くの報告がある(文部科学省URL)。一方、半減期の短いSr-89については、大気圏核実験後から充分な時間が経過し、近年は検出の報告はない。このことから、今回検出されたSr-89は、福島原発から放出された可能性が高いと判断される。報告された土壌中Sr-90濃度は、福島原発事故以前の値と大きく変わっていないが、一部今回の事故によって加わったと考えられる。今後20 km圏内の調査結果を見守る必要がある。ここでは、放射性Srの基礎的な知見について情報提供を行うものである。

 

2.Srの元素としての性質

天然に存在するSrには、Sr-84(存在比0.56%)、Sr-86(9.86%)、Sr-87(7.00%)およびSr-88(82.58%)の4つの安定同位体(非放射性核種)がある。今回検出された放射性Srは、前述したSr-89およびSr-90の2核種であり、これらはウランの核分裂によって生成される。このうち半減期の短いSr-89は、放射性壊変によって速やかに減衰するが、半減期の長いSr-90は長期間環境中に残る。しかしながら、放射性ヨウ素(I)や放射性Csは高温になるとガス化し揮散しやすいため広範囲に拡散するが、放射性Srは揮散しにくいため拡散の状況は大きく異なると考えられる。なお、放射性Iや放射性Csに比べて放射性Srの分析結果の発表には時間がかかったが、これは分析法の違いによるものである。γ線を放出するI-131、Cs-134およびCs-137は、容器に詰めた試料からのγ線を直接計測することが可能であるため比較的短時間で結果を求めることができる。しかし、放射性Srはβ線を測定するため、環境試料からSrと他の放射性核種を分離する必要があり、分析に手間と時間を要するため結果を得るまでに時間を要する。

Srはアルカリ土類金属であり、化学的な性質は同属元素のカルシウム(Ca)と良く似ている。放射性Srが人体に取り込まれると骨に濃縮すると言われているのはこのためである。環境中におけるSrの挙動もCaとの類似性が高い。

 

3.土壌に降下した放射性Srの挙動

放射性Srは原子炉から環境中に放出された後、土壌に沈着しCaと同様に2価の陽イオンとしてふるまう。土壌は負の電荷を帯びているため、正荷電を帯びた陽イオンをひきつけ、土壌表面に留める性質がある。Csは土壌中に移動した後、次第に粘土鉱物に取り込まれ離れにくくなる。ところがSrは、Csに比べ土壌中で動きやすく、Caと極めて類似した挙動を示す。

大気圏核実験に由来するSr-90もCs-137と同様に、主に1960年代に地球全体に広がり、土壌に降下した。わが国の水田および畑土壌のSr-90濃度は、降下量の多かった1963~1966年をピークに減少し、作土内における滞留半減時間は水田作土で6~13年、畑作土で6~15年と報告され、Cs-137よりも短い値となっている(駒村ら, 2006)。このSr-90濃度の減少は、下層への溶脱等の他に放射性壊変による減衰も含んでいる。陽イオンと置き換わることができるイオン交換態(置換態とも言う)は、38%(駒村ら, 1994)、55%(塚田ら, 2005)との報告がある。また、2001年に圃場から採取した土壌中Sr-90とCs-137の鉛直濃度分布では、Sr-90は1 m以深まで下方浸透しているが、Cs-137は表層耕作層に留まっている例がある(塚田ら, 2006)。このようにSr-90は、土壌中においてCs-137により動きやすいことが知られている。

 

4.土壌から作物へのSrの移行

放射性Srの作物への吸収経路は、放射性Csと同様に、大気から作物体に沈着し吸収される葉面吸収と、一度土壌に降下したのち根を通じて吸収される経根吸収がある。大気圏核実験由来のSr-90の降下がほとんど認められない1990年代以降は、白米中Sr-90の大部分が経根吸収により取り込まれたものとされる(駒村ら, 2006)。

土壌-作物間のSrの移行は、作物の種類、土壌の性質によって大きく異なる(Uchidaら, 2007; IAEA,  2010)。Caを良く吸収する作物は、Srも良く吸収する(Tsukadaら, 1998; Uchidaら, 2007)。日本の畑土壌では、陽イオン交換容量が大きい土壌ほど、小麦にSr-90が吸収されにくいという報告がある(Yamaguchi ら, 2007)。炭酸カルシウムの施用がSr-90の水稲への吸収抑制に効果的だとする報告もある(津村ら, 1984)。

日本各地の観測圃場で採取された米のSr-90濃度は、1963年以降減少傾向を示している(駒村ら, 2006)。なお、土壌から白米へのSr-90の移行係数(乾燥した白米1 kg当たりの放射能濃度/乾燥土壌1 kg当たりの放射能濃度の比)は、0.0043(駒村ら, 1994;算術平均値, 水分12%として乾物重量に換算)、0.0021-0.0094(Tsukadaら, 2005)と報告されている。

 

5.吸収されたSrの作物体内での存在割合

Sr-90とCaはイネ体内で極めて類似した挙動を示す。白米中Sr-90濃度に対しヌカで29倍、モミガラで24倍、ワラで100倍の濃度であった。イネに吸収されたSr-90のうち白米に移行した割合はわずか0.5%であるが、玄米には2.3%存在する。これは、ヌカ中Sr-90濃度が白米よりも高いためである。イネに吸収されたSr-90の97%が、非可食部(モミガラ・ワラ・根)に存在しているとの報告もある(Tsukadaら, 2005; Tsukadaら, 2008)。また、キャベツ葉中におけるSrは、外葉部(外側の開いている非可食部)で高く、球葉部(内側の結球している可食部)で低い濃度にあり、Caと同様な濃度分布を示し、外葉部と球葉部のSr存在割合は91:9との報告がある(Tsukadaら, 2002)。

 

引用文献

駒村ら(1994) Radioisotopes 46, 1-8.

駒村ら(2006) 農業環境技術研究報告24, 1-21.

文部科学省URL: http://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index

Tsukadaら(1998) Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 236, 123-131.

Tsukadaら(2002) Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 252, 219-224.

Tsukadaら(2005) Journal of Environmental Radioactivity 81, 221-231.

塚田ら(2005) 日本原子力学会2005年春の大会講演要旨.

塚田ら(2006) 第48回環境放射能調査研究成果論文抄録集.

Tsukadaら(2008) Proceeding of 16th Pacific Basin Nuclear Conference, Aomori, Japan.

津村ら(1984)農業技術研究所報告B, 36, 57-113.

Uchidaら(2007) Journal of Nuclear Science and Technology 44, 628-640.

Uchidaら(2007) Journal of Nuclear Science and Technology 44, 779-790.

Yamaguchiら(2007) Science of the Total Environment 372, 595-604.


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